ロシアの近年の政治や経済の動向が世界の金市場に大きな影響を与えています。
また、ロシアに対する経済制裁や金輸出の制限により、金の需給バランスや価格形成に変化が生じています。
本記事では、ロシアの動向が金相場にどのような影響を及ぼすのか、今後の金価格の見通しや投資家の動向について詳しく解説します。
ロシアの近年の動向が世界の金市場に与える影響
ロシアの近年の政治や経済の動向は、世界の金市場に大きな影響を及ぼしています。 特に、ロシアに対する経済制裁や金輸出の制限は、金の需給バランスや価格形成に大きな変化をもたらしました。 ロシアは世界有数の金の産出国であり、その動向は金市場にとって重要な意味を持ちます。近年、ロシアは自国の金準備を増やす政策を取っており、金の買い入れを積極的に行ってきました。これにより、ロシアの金準備高は世界でもトップクラスとなっています。 しかし、2022年のロシアのウクライナ侵攻を受けて、欧米諸国はロシアに対する経済制裁を強化しました。その一環として、ロシアからの金の輸入を禁止する措置が取られました。 ■2022年 財務省発令(日本) ウクライナ情勢に関する外国為替及び外国貿易法に基づく措置について(令和4年7月25日) 出典元:財務省 この制裁により、ロシアの金輸出が大きく制限され、世界の金市場に供給不足の懸念が生じました。 ロシアからの金供給が減少することで、金の需給バランスが崩れ、金価格の上昇圧力が高まっています。また、地政学的リスクの高まりから、安全資産としての金の需要も増加傾向にあります。これらの要因が重なり、金相場は上昇基調で推移しているのです。 今後の金相場については、ロシアの動向や経済制裁の行方が大きな影響を与えると予想されます。ロシアと欧米諸国の対立が長期化すれば、金市場の不安定性が続く可能性があります。一方で、ロシアが金輸出を再開できれば、供給不足の懸念が和らぎ、金価格の上昇圧力が弱まるかもしれません。 投資家としては、こうした地政学的リスクや金市場の動向を注視しながら、適切な投資判断を下すことが求められます。金は不確実性の高い時期における有力な投資対象ですが、価格変動も大きいため、慎重なリスク管理が必要不可欠です。ポートフォリオの分散投資や、長期的な視点に立った投資戦略が肝要となるでしょう。 |
参考:2022年度版】金の産出国ランキングトップ10
順位 | 国名 | 生産量 |
---|---|---|
1位 | 中華人民共和国 | 330t |
2位 | オーストラリア ロシア | 320t |
4位 | カナダ | 220t |
5位 | アメリカ合衆国 | 170t |
6位 | カザフスタン メキシコ | 120t |
8位 | 南アフリカ | 110t |
9位 | ペルー ウズベキスタン | 100t |
出典:U.S. Geological Survey「Mineral Commodity Summaries 2023」
下図:ロシア中銀の金準備高 2022年2月から2023年3月までに31.1トン増加
ロシアに対する金輸出の制裁
前述のとおり、ロシアに対する経済制裁の一環として、欧米諸国がロシア産の金の輸入を禁止する措置を取っています。 これにより、ロシアから金を調達することが困難になり、金の供給量が減少しています。 一方で、ロシアは世界有数の金の産出国であり、金準備高も世界第5位を誇ります。 ロシアは自国通貨ルーブルの価値を守るために、金を活用する戦略を取っていて、金輸出の制限により、ロシア国内の金の在庫量が増加し、金価格の上昇圧力になっています。 金輸出の制裁は、ロシアだけでなく世界の金市場にも影響を及ぼしています。金の供給量が減少することで、需給のバランスが崩れ、金価格の変動要因になっています。また、ロシアの金政策が他国の金融政策にも影響を与える可能性があります。 金輸出の制裁は、短期的には金価格の上昇要因になると考えられますが、長期的な影響については不透明な部分もあります。制裁の動向や各国の金融政策によって、金相場は大きく変動する可能性があるでしょう。投資家は、ロシアの動向だけでなく、世界経済の状況を注視しながら、慎重に投資判断を行う必要があります。 |
金の産出量の推移とトレンド
今後の金相場と投資家の動向
ロシアの金政策や経済制裁の影響により、今後の金相場は不透明感が強まっています。 金価格の短期的な変動リスクが高まる一方、中長期的には金需要の拡大により上昇トレンドが続くとの見方もあります。 投資家は金相場の動向を注視しつつ、ポートフォリオ全体のリスク分散を意識した資産配分が重要になるでしょう。金ETFや金先物取引といった金融商品の活用も選択肢の一つです。ただし、レバレッジを効かせた取引は価格変動リスクが大きいため、自身のリスク許容度に見合った慎重な投資判断が求められます。 また、金価格は為替レートとも連動する傾向にあります。米ドルの動向をはじめ、主要国の金融政策や地政学リスクなども金相場に影響を及ぼす要因です。マクロ経済の動向を幅広く分析しながら、金投資の適切なタイミングを見極めていくことが肝要といえるでしょう。 金は古くから貨幣や価値の保存手段として重宝されてきた資産です。今後も各国の金融政策や世界経済の不確実性を背景に、金需要は底堅く推移すると予想されます。 長期的な資産形成の一環として、金投資を検討してみるのも一案かもしれません。 |
金の価格高騰の理由とは?
一般的に、供給量が増えると物の価格は下がりますが、過去を振り返ると金は供給量が増えているにもかかわらず、金相場は上昇し続けています。
2024年10月には金の買取価格が史上初めて15,025円を記録しました。金の相場が上昇している背景には、供給量の増加以上に金需要が増加していることがあります。
金は、装飾・資産投資・精密機器の製造といったさまざまな用途を持ちますが、特に近年影響しているのは投資としての価値です。
リーマンショック後、その影響を跳ね返しながら世界経済が力強く回復した頃には金融資産としての金の価値が見直され、有事に備えて金を保有する投資家が増加しました。
また、2020年の新型コロナウイルス感染症の流行、2022年のロシアによるウクライナ侵攻などによる世界経済への不安も需要の後押しをしています。
つまり、資産としての安定性や信頼性が高い金は、リスクの無い(少ない)投資先として有力であると多くの人に認識されているのです。
さらに高まる金の資産価値
金が安全資産である理由は、経済が不安定な状況でも金の価値がなくなる可能性が低い点にあります。株式などの場合、企業の倒産によって資産的価値がゼロになるリスクがありますが、金は急激にその価値が下落する可能性は低いものです。
紙である証券類は、国や会社の信用という価値を上乗せしているからこそ価値が生まれます。一方、金はそのものに価値があるため、資産としての安定性が高い点が強みです。
金は、好景気のときには装飾品としての売買が増えるなど、実体経済における需要が高まり、不景気になると投資需要が高まります。つまり金は、好景気にせよ不景気にせよ需要が高くなりやすい性質があります。
もちろん、さまざまな要因によって金相場は変動するため、一概に言えるものではありませんが、基本的には今後も金の価値は高まると考えられます。
金価格とドルの関係とは?
金価格とドルは、密接な関係にあるといえます。これは、国際市場において、金価格はドル建ての価格が基準となるためです。
米ドル建ての金価格は、「米ドル/1トロイオンス(31.1035g)」で表示されます。トロイオンスとは、金やプラチナなどの貴金属を計量する際に国際的に使用されている単位です。
では、金価格とドル価格はどのような関係が見られるのでしょうか。理論的には、金とドルの関係は、おおむね逆相関となっています。
つまり、ドル指数が上がれば(米ドルの価値が上がれば)金価格は下がり、逆にドル指数が下がれば(米ドルの価値が下がれば)金価格は上がる傾向にあります。
ドル指数が上昇すると、ほかの通貨は相対的に安くなります。このとき、ドル建て金価格が下がることで、米ドル以外の通貨による金購入が割高にならないようになっているのです。
ただし、これはあくまでも理論上の話であって、実際の値動きはこのとおりにならないケースもあるため注意しましょう。
日本で金価格が高騰するのは「ドル高円安」のとき
円安とは、ドルに対して円の価値が低くなることを意味します。逆に円の価値が高くなれば、円高といわれ、一般的に円安になるにつれて金価格は高騰します。
ここ数年の為替市場を見ると、円安ドル高の傾向が続いているのが特徴です。この円安進行を食い止めるため、2024年5月、7月に日本政府が為替介入に踏み切り、一度は円高ドル安の流れが生まれました。
しかし2025年1月現在、158円前後で、依然として円安が続いています。
円安になる理由はいくつかありますが、基本として世界経済が不安定になったときは大きく為替が動きます。
金相場の動きを把握するには、世界で何が起こっているかに目を向け、為替市場の動向を常にチェックすることが大切です。
金価格の動向を見るには、為替相場との関連性を理解するようにしましょう。
ドル建ての金価格が変動する3つの要因
ドル建ての金価格が変動する要因を3つ紹介します。
アメリカ経済の動向
アメリカ経済が好調になると、金以外のハイリスクハイリターンな投資商品の需要が増します。これは金利の上昇にともない、利子や配当を得られる投資商品の人気が高まるためです。
一方、金投資の方法には、金地金・金貨を購入する現物投資や純金積立などがありますが、利子や配当は得られません。そのため、経済が好調なときは、高配当となるほかの投資商品の人気が上がり、相対的に金相場が下落傾向になるのです。
逆に、アメリカ経済が不調な時期は、世界で共通の価値を持つ金の需要が高まります。一例として、2023年3月には、米大手のシリコンバレーバンクが破綻した影響などを受け、ドル建ての金価格は上昇しました。
アメリカの政策金利
アメリカの政策金利は、FRB(米連邦準備理事会)が開催する「FOMC(米連邦公開市場委員会)」によって決まります。アメリカの政策金利が引き上げられると、ドル建ての金価格は下落するのに対し、引き下げられると金価格は上昇するといわれています。
ただ、この逆相関関係はあくまで傾向であり、過去には金利が引き下げられても金価格が上昇しなかった事例もあります。
金利が上昇すると金相場は下がるのがセオリーですが、いまだ解決に至らないウクライナ情勢などをリスクオフ要因とし、金相場は安定的に上昇するとの見方もあります。
ドルの価値
米ドルの価値が変動すると、ドル建ての金価格も上下します。具体的には、米ドルの価値が高まると金投資のニーズが弱まるため、金価格の下落につながるのが一般的です。一方、米ドルの価値が低くなると、安全資産の金のニーズが強まり、金価格も上昇する傾向にあります。
しかし昨今は、経済的不安や地政学的リスクが高まる一方で、アメリカの金融引き締めによって金利が上昇しています。そのため、ドル高と金高が同時に進むという、通常とは異なる状況が生まれている状況です。
金相場が他の通貨ペアに与える影響
金相場は米ドル以外の通貨にも間接的に影響を与えます。特に資源国通貨(豪ドル、南アフリカランドなど)や新興国通貨に関連性が高いです。
1 資源国通貨
豪ドル(AUD): オーストラリアは世界有数の金生産国であるため、金価格が上昇すると豪ドルが強くなる傾向があります。
南アフリカランド(ZAR): 南アフリカも主要な金生産国であり、金価格が上昇するとランドが強含みます。
2 新興国通貨
金価格の上昇は、新興国市場の通貨にとってポジティブに働くことがあります。これは、金がこれらの国々での外貨準備として重要な役割を果たしているためです。
金相場を為替取引戦略に活用する方法
1 金相場を指標として利用
金相場の動向を為替取引の指標として活用することが可能です。たとえば:
金価格の急騰: 金価格が急騰した場合、リスク回避の動きが強まり、ドルや円の買いが進む可能性があります。
金価格の下落: 金価格が下落すると、リスク選好のムードが高まり、リスク資産とされる通貨(豪ドル、NZドルなど)が買われやすくなります。
2 相関性を活かしたトレード
金と通貨の相関性を理解し、ヘッジや相乗効果を狙うトレード戦略が効果的です。
ヘッジ戦略: ドルロングポジションを持つ際に、金のショートポジションを取ることでリスクを低減。
相乗効果戦略: 金価格上昇が豪ドルや南アフリカランドの上昇につながると予想される場合、これらの通貨を買う。
まとめ
ロシアの金政策が世界経済に与える影響は大きく、金投資家は今後の動向に注目しています。ロシアの金輸出制限や西側諸国による経済制裁により、世界の金需給バランスに変化が生じています。金相場は短期的には価格変動リスクがありますが、中長期的には上昇トレンドを維持すると考えられます。 金は安全資産としての性質が強く、地政学リスクの高まりや経済の不確実性から需要が高まる傾向にあります。ロシアの金輸出制限は世界の金供給量を減らし、需給のひっ迫から金価格を押し上げる要因になります。また、ロシアの外貨準備に占める金の割合が高いことから、ルーブル防衛のために金を売却する可能性もあり、金相場の変動要因になり得ます。 また、金価格とドルは、密接な関係にあります。 これは、国際市場において、金価格はドル建ての価格が基準となるためです。 金とドルの関係は、おおむね逆相関となっています。 つまり、米ドルの価値が上がれば金価格は下がり、 逆に米ドルの価値が下がれば金価格は上がる傾向にあります。 ドル指数が上昇すると、円を含めてほかの通貨は相対的に安くなります。 このとき、ドル建て金価格が下がることで、米ドル以外の通貨による金購入が割高にならないようになっています。 また、米金利が上がれば金価格が下がり、米金利が下がれば金価格が上がる。という逆相関もありますが、現在は、米金利が高いにもかかわらず金の相場も高くなっています。 理由を4つ上げます。 1.国際情勢の不安定化 コロナ・ロシアウクライナ戦争などによる地政学的リスクや経済不安が高まっているので、安全資産として需要が増加している。 2.各国でインフレ抑制のための金利引き上げが行われていますが、 インフレそのものが進行している場合、 金はインフレに対するリスクヘッジとしての価値が評価されます。 日本でも「有事の金」とすら言われるくらい、物価高などで紙幣の価値が下がってきてしまった際に金は価値が下がらないので、持っておこう。となります。 3.米ドルの動向と為替の影響 米金利が上昇しても、ドル円相場が円安ドル高である場合、 円安が金の価格に影響を与えるため、金の価格は上昇しやすい状況になります 4.低金利環境への期待 長期的な金利引き下げへの期待感が投資家心理を後押しし、金市場に投資資金が流入していることも背景にある。 ※単純に金利が高い状態でも今の価格なのだから、金利が下がったら更に上がるんじゃないか。という期待ですね。 |
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